ワイナリーの物語を紡ぐ、
マオイ生まれの北海道ワイン。

マオイ自由の丘ワイナリー

赤い屋根が目印。ワイナリーからは美しい馬追の景色が見られる。赤い屋根が目印。ワイナリーからは美しい馬追の景色が見られる

ワイナリーの看板を目印に舗装されていない坂道を登っていくと、ふと赤い屋根が目に飛び込んでくる。かつては個人オーナーが運営していた日本一小さいワイナリーを、30代の若い造り手がゆずり受けて生まれた「マオイ自由の丘ワイナリー」だ。

石狩平野に沈む夕日が美しい丘に着き、ワイナリーに入るとすぐ小さなワインショップがある。店の中には自社ブランド「自由の丘ワイン」の商品が置かれ、ワインのエチケットには、空蝉、夕顔、花宴、蓬生…文学好きならばすぐにピンとくるかもしれない名前が並んでいた。

「ワインの名前は、源氏物語の各章のタイトルから付けています。日本はもちろん、海外でも有名な源氏物語から拝借することで、国内外多くの方に北海道のワインを親しんでもらえたら、との想いからです。ワインの味わいや特徴にあう章のタイトルを、各章の内容や雰囲気から選んで付けています。」
そう話すのは取締役の池岡さん。源氏物語の幻の章「雲隠」は、ブドウ研究家岩松清四郎さんが開発した山ブドウの希少品種「岩松」を100%使用している特別なワインに、そのタイトルを使っているのだとか。

1.自由の丘ワイナリーオリジナルワイン。併設しているワインショップで購入できる。 2.第1回エチケットアートアワードグランプリ作品「探す人、光る木」（久野志乃/2014年）

古い恋物語に思いを巡らせながら１本づつワインをあけていく、そんな大人なワインの楽しみ方もできそうだ。飲食業の経験がある醸造担当の金竹さんが、自由の丘ワインの味わいやシチュエーションについて教えてくれた。
「『澪標』は少し日本酒的な雰囲気の味わいがあり、和食やスッキリとしたお料理によく合います。それと反対に山葡萄系は、クリアな酸とアタックの強さがあるので、北海道ならば蝦夷鹿などのジビエや、中華といったパンチの効いたお料理との相性が良く、味に負けない強さがあるのが特徴です。あと、個人的に発色の良いロゼ『夕顔』は明るい時間に楽しんで欲しいワインです。アウトドアブランチで、サンドイッチとあわせて飲むのもおすすめです。」

ワイナリーでは新しいチャレンジをと、ワインのラベルを公募する「エチケットアワード」の試みを2017年から開始した。優勝作品はワインのエチケットとなり、1年間限定のアートボトルとして販売される。限定エチケットのアートボトルは観賞用としても人気があり、希少価値も高い。グランプリをとった作品の原画をワイナリーが譲り受け、最終的には受賞作品のギャラリーをオープンしたい、と池岡さんは語る。

第1回のアワードは久野志乃さんの「探す人、光る木」が優勝。「澪標」のラベルに採用された。
「実は、受賞した久野さんの作品の内容が、たまたま僕たちのやっていることと一致していて…この土地でどんな品種が育つのか、手探りで探す自分たちの姿に重なるこの作品に運命を感じました。」(池岡さん)

馬追の気候に耐えられる品種を十年以上の歳月をかけて探し出した馬追の気候に耐えられる品種を十年以上の歳月をかけて探し出した

今ワイナリーで育てられている山葡萄系の改良品種は、前オーナーが土地の気候にあわせて膨大なデータを取り、10年以上の月日をかけて探し出した。積雪が少ない馬追では一般的なぶどうは冬の風の被害を受けるなか、それに耐えることができる品種を試行錯誤して探した結果だ。

「ですが、ここ10年〜15年の統計の結果から、温暖化が進んだことで北海道にはブルゴーニュの品種が適していると言われるようになったんです。長い目で見ると気候にも変化があると思うので、アプローチを変えてどういう結果が得られるか、常に検証をしていかないといけないなと考えています。」(金竹さん)

マオイ自由の丘ワイナリーの造り手たちは、今後、畑を広げてヨーロッパ品種に手を広げる予定だと話す。この土地の気候にあうかどうか、前オーナーが残してくれた情報と照らし合わせつつ、実験して新しいデータを取るところからコツコツと始めてみたいと。

畑の規模拡大にあわせて、ワインにあわせて食事ができる施設のオープンも検討しているそうだ。土地にあう品種の発見、文学やアート、ギャラリー、さらに食の提供など。遊び心を忘れない若い造り手たちが紡ぐストーリーは、彼らが生み出すワインの味わいにも反映されていくのかもしれない。

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